2025年8月13日水曜日

北岳

 南アルプスの山を今回初めて登ります。

2ヵ月前の6月に登った八ヶ岳と南アルプスの間が諏訪湖、甲府、富士山を結ぶ回廊です。

一方で南アルプスと中央アルプス(木曽山脈)の間が中山道の一部になっている木曽路です。

また山梨県と長野県の県境にもなっています。調べてみると南アルプスの下半分には静岡県も食い込んでいるのですね。こんなところが静岡県とはイメージが違いますが。


南アルプスには日本百名山のうち10座があるのですね。北岳は日本第2の標高なので勿論南アルプスでは最高峰の山です。また、北岳、間ノ岳、農取岳(のうとりだけ)の3つを白根三山と呼ばれています。農鳥岳は日本第5位の標高なのですが、日本百名山には選ばれていません。調べてみると、日本百名山を選出した登山家兼小説家の深田久弥(きゅうや, 明治36年生)が農鳥岳に登っていないというだけの理由だそうです。


今回のルートですが、超早朝に車で出発して広河原登山口(1800m)から登って白根御池小屋(2200m)でテント泊をして、翌朝北岳頂上を踏んでから広河原登山口までピストン下山するというものです

3人のパーティーでゆっくりペースで下の結果となりました。

  • 1日目:休憩込み4時間、3km、上り標高780m、下り60m
  • 2日目:休憩込み12時間、9km、上り標高1000m、下り1700m

南アルプスは八ヶ岳などと違って火山性の山ではなく隆起によってできた山なので、山容は厳しくありません。なので岩場は少なくて比較的歩きやすいです。

コースには我々が使った白根御池小屋の他にも頂上手前に肩の小屋(3000m)があり、頂上のご来光などの目的に向いていますが、我々のようなピストンコースの場合、白根御池小屋で荷物をデポできてアタックザックで頂上の1000m間を攻められる有利さで今回のコースにしました(というか、そうでないと体力的に無理)。


N氏の車が筆者とTさんを回収し丑三つ時に出発、新名神、新東名を進んで芦安駐車場に到着、駐車場手前でアクシデントがありましたが、なんとか朝10時のバスに乗車しました。N氏には長距離運転本当に感謝です。



バス乗り場にあった芦安周辺の案内版に今回のバスルートをプロット(オレンジ色)してみました。約1時間で広河原まで連れて行ってくれます(1580円)。途中運転手の補佐をする方が道沿いの解説をしてくれて楽しい気分のバスですが、かなりの運転テクニックを要する山道です。

あらためてエリアマップを見直すとバスは広河原の先の北沢峠(標高2036m)まで行くようで、北沢峠にある「こもれび山荘」からは甲斐駒ヶ岳(1000mの登り)や仙丈ヶ岳に登れるようになっています。



11時に広河原バス停に到着。



バス停の建物はちょとしたジオパークのようになっています。雷鳥の生息域はおおよそ標高2200m以上のハイマツ帯などだそうです。




野呂川にかかる吊り橋を渡るといよいよ登山開始です。地図を見ると野呂川は向かって北岳の裏から北に周って流れてきています。




スタートして1時間ほどで白根御池分岐を過ぎます。白根御池分岐では白根御池を経由しない大樺沢(おおかんば)ルートがあるのですが、しばらく前から閉鎖されているようです。

急登の前にチリトマトヌードルを食べて備えます。ランチ中に大勢の団体さんが通り過ぎていきました。



白根御池分岐から尾根道にたどり着くまでキツイ道が2時間ほど続きます



尾根取り付きまでの急登にはところどころ階段が設置されていますが、一段目に脚をかけるのが大変です。でも、こんなしっかりした階段を作ってくれた方々には感謝です。



オレンジ色のキノコ。カエンダケかなと思いましたが、ニカワホウキダケという種類だそう。毒性はないけれど食用ではない。



このキク科の植物はキオンという品種。シカがいやがる草らしく繁殖しています。



標高2000mあたりから野呂川を越えた東方向にある鳳凰三山が見えてきます。地蔵ヶ岳(2764m)、薬師岳(2780m)、観音岳(2840m)の三山です。中央の地蔵ヶ岳を中心に羽根を伸ばしているように見えるのが鳳凰三山の由来とのこと。



ようやく尾根道に取り付きました。ここから白根御池小屋へと進みます。



この可憐な花はシモツケソウ。こちらは鹿に食われて個体数が減ってきているそうです。



これはソバナという花。食用として使え、おひたしや天ぷらにしても美味しいとのこと。



登り始めて約4時間後の15時半にようやく白根御池小屋にたどり着きました。



白根御池小屋では小屋泊もできますが、我々はテント持参です。小屋泊のほうが圧倒的に荷物を減らせますが、お盆休み近くで人が多い小屋泊はいびきとかで安眠できない恐れがあります。

15時半で80帳のテント場はまだいくらかスペースが残っている状態でした。我々3名めいめいが持参のテントを張り終えると、筆者はビールを所望。なんとこちらの小屋では冷たく冷やしたジョッキに生ビールを入れてくれるので格別の美味しさでした

トイレは仮設トイレが4つあります。文句を言ってはいけませんが、それなりの臭気でした。



楽しい夕食で時間を過ごします。筆者は尾西とCoCo壱番のコラボカレーとかねふくの明太魚肉ソーセージを食べました。気温がどんどん冷えてきたので18時くらいにテントに入りました。

地面が微妙に傾いていたり、凹みがあったりして何度もテントの場所を動かして仲間の二人から白い目で見られましたが、筆者にとっては非常に重要です結果的に最後にベストポジションを見つけられたのでとても良かったです。この辺がテント泊の難しいところですね。

筆者のすぐそばでインドネシアの女の子二人がテントを張りだしておしゃべりしているのがうるさかったですが、やがて静かになって筆者も眠りに入り、6時間くらいは良い睡眠を取れました

夜は曇り空のせいで放射冷却が抑えられてそれほど寒くなく、シュラフを掛け布団にして眠ることができましたが、深夜過ぎたあたりからさすがにシュラフの中に潜り込みました。

朝の3時くらいまでウトウトして起床の準備を始めます。周りのテントもそわそわし始めました。



白根御池小屋のスタッフさんが、お昼までに戻ってくるという条件で、テントを張りっぱなしでも良いと言ってくれたので、お言葉に甘えて最小限の荷物だけを18Lのアタックザックに入れて朝4時半ごろに出発しました。早すぎるので、朝ごはんは熱い紅茶にオールレーズン3カケだけ。

もうすでに空は十分白んでいたのでヘッドランプなしでも十分歩けます。




空高く月が登っています。左側が明るい下弦の月。



白根御池小屋から小太郎尾根までの登り道を「草スベリ」と言いますが、特に草に滑るわけでもありません。今は登山道は土道ですが昔は草の上を歩いたからなのでしょう。

草スベリの前半は高山植物のお花畑です

センジュガンピ。ナデシコ科の高山植物。



ハクサンフウロ。漢字で白山風露と書きますが高山植物らしい名前です。



お花畑一面に咲いていたのがマルバダケブキ。漢字で「丸葉岳蕗」。茎がフキのようなのでこの名前が付いていますが実際はキクの仲間。



キタダケトリカブト。トリカブトの北岳固有種。大昔はこの毒を矢につけて狩猟をしていたという。



5時半になり、陽の光線がビームのように射しています。



小太郎尾根までの300mほどのキツイ登りをいくTさん。下山の時はすれ違う多くの人が死にそうな顔をしていました。



ウメバチソウ。漢字は「梅鉢草」。梅の花に似ているのが名前の由来。



右俣コースとの合流地点になるとまたお花畑が広がります。



鳳凰三山の向こうに雲海が広がっています。



チングルマ。7~8月の花が咲き終わって、種を飛ばすための赤い綿毛が生えたところです。



小太郎尾根分岐手前で北岳の頂上がはっきりと見えてきます。



小太郎尾根分岐。ここまでくればキツイ登りはもうありません。この分岐を北岳と反対方向にいくと小太郎山(2725m)頂上の突き当りです。展望は良いらしい。



ここから右のゴツゴツした岩壁みたいなところを登ったあと、左上へと進んで行きます。途中で肩の小屋が見えています。



少し雲がかかっていますが甲斐駒ヶ岳(2965m)が見えます(中央少し右)。その左のギザギザの山頂が鋸岳(2985m)です。



さきほど見えてた岩の壁みたいなところですが、クサリ、ハシゴもなく普通に登れます。



頂上への道がはっきりと見えます。この時点では大変よく晴れていて、頂上からの景色に胸をワクワクさせていました(but, ...)



肩の小屋到着。テント場は向かって後ろにもあります。小屋泊の場合の食事は豚の肩ロースらしい。



肩の小屋から頂上へ向かおうとするとガスが湧いてきた。



頂上への道から肩の小屋を見下ろす。



両俣小屋分岐。北岳頂上から西へ野呂川へ下りていくルートです。



南アルプスの山容は優しいといっても頂上付近はやっぱり岩場です。それでも両手でよじ登るような箇所はありません。



頂上にいる人々が見えてきました。



登り始めて4時間強でようやく頂上にたどり着きました。が、あいにくガスで真っ白です。こういうのを「北岳に来ただけ」というそうですが、「来ただけ」でも十分達成感が味わえます



念願の北岳頂上に来られて嬉しそうな筆者。



でも本当はこんな風に富士山が見えることを期待していました。山頂に登る途中でガスの動きを見ていると、下からガスが西方向に幕のように山の斜面を這い上がってきていました

地面の温度が上がることで発生した上昇気流に含まれる水蒸気が高度があがることで温度が下がって凝結してガスになるわけで、今回のような夏で湿気の高い日はガスになる確率が高いと言えます



頂上に咲いていたチシマギキョウ。漢字は「千島桔梗」で南樺太の生息地が有名なので千島という名がついたと。戦前の日本人は夏に樺太でこの花を愛でていたのですね。



これも頂上に咲いていたシロバナタカネビランジ(白花高嶺ビランジ)。これは珍しい花のようで南アルプスの固有種だそう。



これも頂上で見つけた珍しい花でチョウノスケソウというらしい。植物学者の須川長之助が見つけたのが名前の由来で、南アルプス、北アルプス、八ヶ岳、北海道にしか生息していない。

花は白い花弁で、写真は花が咲き終わってメシベが伸びてこのような形になるそうな。草すべりで見たチングルマとよく似ている。



しばらく頂上でガスが晴れないか30分ほど待っていましたがますます濃くなってきたので諦めて、肩の小屋で北岳グッズを購入して下山を開始しました。



草すべりまで戻ると鳳凰三山が陽に照らされてはっきりした姿を見せています。



13時半に白根御池小屋に戻ってきました。張りっぱなしだったテントを撤収してからお昼を食べようとしましたが、小屋のランチは13時半で終了とのこと。代わりにアイスクリームをいただきます。



白根御池小屋を2時に出て広河原に到着したのが最終バスギリギリの4時40分でした。

頂上から白根御池小屋まで約1000mの下山、そこからテント装備を担いで700mの下山は思った以上に大変でした

最悪遅れても乗り合いタクシーという手があったのですが、それには定員になるまで待たなければならないので、バスに間に合ってよかったです。

芦安では近くの温泉にはいって、南アルプス市内で夕食を食べて再びS氏が運転してくれる長距離の帰路につきました。